私好みの新刊 202008

『はじまりは たき火』  まつむら ゆりこ/作 小林マキ/絵  福音館書店

  副題に「火と くらしてきた わたしたち」と書かれている。ヒトが人間として

長く生きてきた中で火に始まるエネルギーをいかに使ってきたかを書き、今は限り

あるエネルギーをいかに効率よく使用するか考える時に来ていることを、小さな子

どもたちにもわかるように描いている。

火と言えば、まず光を出す火がある。人間は燭ろうや松明の火を見つけた。やが

て火起こし技術を身につけ大きくなる火を手に入れた。そして「木の実や肉を焼く

と、やわらかく、おいしくなる」ことを知る。やがて鉱石を火で熱して、鉄や銅な

どの金属が便利に利用できることも知っていく。火のあるくらしを手に入れた人間

はやがてどこかの土地に定住するようになる。風の力を利用したり馬や牛を使うよ

うになって他のエネルギーを使い始める。

その後、人間は「どんどん森をきり開き」「住む場所や畑を広げて」いく。

ここにきて人間は「とうとう、自然そのままの恵みには限りがあること」に気づく。

やがて「木の代わりに石炭を燃やすこと」を考えついた。そして、大きなエネルギ

ーを得ると蒸気機関を発明し車や機械を蒸気の力で動かすようになった。

ところが困ったことが起きた。・・・。あちこちの町は煤煙の漂う町になった。

困った人間は新しいエネルギーとして電気を発明し、この難題を切り抜けた。多く

の電気器具やテレビを初めコンピューターも発明した。ところがまたもや困ったこ

とが起きてきた。・・・。なんだろう。

最後に「地球は かけがいのない 一つの星です。」

「火にささえられた知恵の歴史は、これからもつづいていくのです。」

と結んでいる。小さな子どもたちが、限りある地球のエネルギーについて子どもに

考えさせる本である。               202001月 1,400

 

『お蚕さんから糸と綿と』 大西暢夫/  アリス館  

 著者の大西さんは、今迄から記録に残したい古い農家の写真を取り続けているベ

テランのカメラマンだ。今回は、滋賀県の北部で延々と受け継がれてきた養蚕農家、

西村さんの1年を撮り続けて完成した本である。

滋賀県北部は伊吹山初め石灰岩の多い地帯で桑の木がよく茂る場所である。かつて

は「お蚕さんを育てる農家」が沢山あったが今は西村さん宅一軒となった。まず、

冬、桑の幼木に雪囲いなどして枝結びをする。春になると1万頭以上の蚕を飼育す

るため桑の葉をどっさりと持ち帰る。重労働だ。家族総出で取り入れた桑の葉に、

卵からかえった蚕をばらまいていく。家の中は蚕棚でびっしりと詰まる。蚕のにお

いがプンプンとしそうだ。蚕は大きくなるまでもりもり桑を食べる。やがて、(まぶし)

いわれるこまかな枠に蚕をつめていく。こんどは(まぶし)がぎっしりと天井から吊り下げ

られる。また折り込んだわらに蚕を入れていくこともある。やがて蚕は白い繊維で

卵の形に糸を巻いていく。真っ白なお蚕さんの誕生だ。

やがて、せっかく飼育してきたお蚕さんの命を絶つ時が来た。乾燥させて蚕の命

を絶つ。繭はこれから、人の手によって糸に変わっていく。20個ほどの繭の糸を合

わせて、1本の長い糸に仕上げていくのは、近所のおばあさんの仕事だ。次々と糸は

練られていく。「糸は 生きている。命あるものからできている。」とその時の気持

ちが書かれている。小枠にまかれた生糸は大枠に巻き直されていく。一本の糸の完成

である。やがてみんなの力で角綿を引き真綿に変身させていく。

 蚕産業の1年を見て著者は言う。

「蚕の習性を利用し、さまざまなものを考えついた人の技術と知恵に驚いた。」

と。滋賀県の片隅で受け継がれている養蚕農家の1年である。

202001  1,400

               「新刊紹介8月」